むかし、むかし、広い世界の大きな大陸に、大きな大きな国があった。
その大陸には、その国以外の国はなく、争いもなく、豊かな大地の恵みと、発達した科学によって、誰もがとてもとても幸せに暮らしていた。
明日への悩みも、苦しみも、痛みもなく、人々は平和に、穏やかに生きていた。
しかし、誰もが幸せに暮らしていたその国で、唯一、取り除けない不幸が存在していた。
それは「死」
どんなに幸せでも、いつかは死んでしまう。愛しい人が、大事な人が失われるたび、幸せは悲しみに代わり、心を痛めた。
――親しきものの死。
大きな大陸の幸せな国の唯一の不幸。
その不幸を取り除こうと、たくさんの科学者が研究を重ねた。
死なないこと。それこそが、この国が真に幸せとなる唯一の方法であると、信じて。
だが、生死を歪めることは叶わず。
研究は、多くの成果を残した。その成果は、国を益々豊かにしたけれど、本来の目的へと近づくことはできなかった。
長い年月が経って、やがて、国にも死が訪れた。国にも平等に死が訪れた。
科学者たちは、「死」を克服する方法を見つけることができなかった。
幸せの国の幸せは死に絶え、全てが無に帰ったという。
が、果たして、全てであったかどうかは――わからない。
[大きな国の話]
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