毒薬と火薬 「序」 本文へジャンプ



 昔、昔のその昔。巨大な竜がいたそうな。
 どこから来たのか、どこへ行くのか誰も知らない。ただ巨大な竜がいたそうな。

 その翼は遥か彼方の空をも覆いつくし、その爪先は一振りで山を抉り取った。巨大な口は大地を喰らい、吐いた息は雲となって世界を巡ったという。

 だが、傍若無人に世界を蹂躙していた巨大な竜も年老いた。
 巨大な竜であっても、その身に迫る老いから逃れることはできなかった。
 竜は翼を羽ばたく力を失い、広い海のど真中に落っこちた。

 巨大な竜は波に飲まれたが、あまりにも巨大なその身は、深き海に身を委ねる事はなかった。

 竜は息絶えて、その骸は朽ち腐り、やがて、その屍を苗床に草木が芽吹いたそうな。
 巨大な竜の屍はいつしか、巨大な大陸となったという。

 恐るべき竜が失われて幾数十年の果て。

 海の向こうからやってきた人の子ら。時は流れ、竜のことを忘れたが、その記憶は遠く受け継がれていた。

 屍の大陸に辿り着いた人間らは、この大陸を巨大な竜(ファンテオン)と呼ぶようになったそうな。

 昔、昔のその昔。巨大な竜ファンテオンの話。


[巨大な竜の話]

 

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